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私は悪人、あなたも悪人、そして、みんな悪人? [BOOKS]

IMG_0630.JPG一昨日の金曜日、人間ドックに行ってきた。前日の木曜日は高熱が出て会社を休んでいたので、体調が万全と言えない状況でドックに臨んだ。血液検査などの結果はまだ出ていないが、血圧測定でとんでもない数値が出た。私は日頃から血圧が高いほうで、ここ数年の検査でも上が150前後、下が100前後という「高値安定状態」が続いていたが、今回は、上が170、下が110と、これまでの検査で最も高い数値が出た。

原因はよくわからないが、多分、日頃の不摂生とストレスによるものだと思う。よく人からは、ストレスなんてないでしょうと言われるけど、この年になると、人には言えないストレスが一つや二つあるものだ。そういえば、私の父も、祖父も、血圧が高かった。遺伝というのもあるかもしれないが、本当のところはよくわからない。このままの生活を続けると、どこかで血管が破裂して万事休す、ということになるかもしれないが、そのときはそのときで仕方ないと、私は思っている。

さて、昨年公開された映画を対象とした、第87回キネマ旬報ベストテンが先日発表され、日本映画の第一位に「悪人」が選出された。「悪人」は、昨年のモントリオール映画祭に出品され、ヒロインを演じた深津絵里が最優秀女優賞を受賞したことでも知られる作品だ。

映画は観れなかったが、遅ればせながら、吉田修一さんの『悪人』を読ませてもらった。その感想のようなものを今日は書きたいと思う。

まず最初に、変なことを言うかもしれないが、この本のタイトルがどうして『悪人』になったのかが、よくわからないのだ。インターネットでいくつか書評のようなものを読ませてもらったが、私の疑問を解決してくれるものはなかった。「「悪」と「悪でないもの」の境界とは何なのか」、「人間は誰でも悪人にも、そして善人にもなりうる可能性を持っている」など、そういう視点からこの小説を解説しているものがほとんどだったが、そもそも、「悪」とか「悪人」とは何なのかという定義のようなものを、この小説は明らかにしていないと思う。

「悪人」とは、法律を犯す人とか、他人に迷惑をかける人とか、そんな月並みで薄っぺらいことを吉田さんは念頭に置いて小説を書いたわけではないと思う。もっと複雑で、深いものを想定していたに違いない。しかしながら、読み手にとって一体「悪人」とは何なのか、よくわからないのである。「この作品は、いろいろなことを考えさせてくれる小説であった」とコメントした書評が二三あったが、一般的に言って、「いろいろ考えさせてくれる」というときは、作者からハッキリとしたメッセージが読者に伝わっていないときに使われることが多いような気がする。

この小説を読んで私はすぐ、黒澤明監督の「天国と地獄」を思い起こした。丘の上に立つ豪邸で何不自由なく暮らす選ばれた人たちと、丘の下で日々苦しい生活に明け暮れる人たちを対比的に描いた映画で、社会の不条理のようなことを訴えた映画だと私は考えているが、これを『悪人』にあてはめてみると、優雅な大学生生活を送る増尾圭吾=丘の上に立つ豪邸で何不自由なく暮らす選ばれた人、最後には殺人犯として逮捕されてしまう土木作業員の清水祐一=丘の下で日々苦しい生活に明け暮れる人、というような図式が成立するような感じがする。

この図式というのは、最近の芸能ネタを使っても示せるような気がする。それは、海老蔵事件である。増尾圭吾=歌舞伎界のプリンス海老蔵、清水祐一=逮捕された元暴走族の伊藤リオン、といった感じだ。何を言いたいのかと言うと、『悪人』は、何が悪なのかとか、誰が悪人なのかといったことを問いかける小説ではない、私はそんな感じがするのである。

それでは、『悪人』は、何を問いかける小説なんか? ところで、主人公、清水祐一は、どんなタイプの人間を代弁しているだろうか。土木作業員である清水祐一はどらかというと貧乏で、なんとなく退屈な生活を送っている。趣味といえばクルマであるが、そのクルマも7年間という長期のローンを組んで買った。クルマ以外では、たまに出会い系サイトを通じてセックスの対象を求める。もちろん彼には、出世欲なんてこれっぽっちもない。こういう感じの「層」の人間って、今の日本には少なくないような気がする。

そういった「層」の人間が悪いということではなく、この「層」の人間は、社会に対するさまざまな苛立ちのようなものを持っていて、それが原因で社会に反発し、結果、なかなか世間を上手く渡っていけない傾向があるような気がする。ツキもないかもしれない。一方、恵まれた環境で育った大学生、増尾圭吾のような人間は、目立った苦労もせずに、スイスイと世間を上手に泳いでいく。人生のババを引くのはいつの世も増尾圭吾のような恵まれた人間ではなく、清水祐一が属する「層」の人間たちだ。これは社会の不条理といえばそれまでかもしれないが、『悪人』は、清水祐一が属する「層」の人たちの一種の「悲劇」のようなものを訴えた、私はそう解釈した。

もっといろいろ書きたいのだが、血圧が上がってきたようなので、もう止める。

さて、明日は福岡へ日帰り出張する。『悪人』の舞台はたまたま福岡、長崎、佐賀の3県だった。ランチは福岡で食べることになるので、今日いろいろ調べたが、結局、博多ラーメンにした。どの店のラーメンが評判なのかインターネットで調べていたら、寒いこともあって、急に温かいラーメンが食べたくなり、新宿歌舞伎町にある大阪、道頓堀のラーメン「神座(かむくら)」に行って、長ネギがたっぷり入った温かラーメンを食べてきた。旨かった。

写真は、今夜の歌舞伎町。いつも人が多いね。

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たかね

がるびさん こにゃにゃちは

この年末、久しぶりに家内の実家に帰りましたところ
普段、口数の少ない義父が、自分の血圧の話をしてました。

ずっと前から高血圧だったのですが、最近は薬もいらなくなったと。

何かしたんですか? と聞いたら、
まあ健康管理は以前からしてたのですが、特に変わったことをした
のは、一日一膳の納豆を食するようになったら、改善したそうです。

関西人ですので、納豆なんて! という家でしたが
いつのまにか、夫婦そろって、納豆を食べるようになったと。

ありきたりの話ですが、末永く夜を徘徊するためにも
健康だけはお気をつけくださいませ。

by たかね (2011-01-18 09:29) 

karubi

たかねさん、こんにちは。
貴重なお話ありがとうございました。

いつも私が引き合いに出させてもらっています、
発酵学者の小泉武夫先生によりますと、
毎日、ヨーグルト、納豆、そしてお酢を少しずつ
食べていれば、健康な身体でいけるそうです。

小泉先生はいまでも毎日、納豆を食べているらしく、
私もこれを真似たことがあるのですが、残念ながら、
1か月も続きませんでした。

継続する力を持つことが、健康にも大切なのかも
しれません。
いずれにしろ、あまり飲み過ぎないように気をつけます。

karubi
by karubi (2011-01-19 10:01) 

たかね

ヨーグルトで思い出しましたが・・・
実父の方は、毎日、ヨーグルトを歯茎に塗って寝るようになってから
定期的に通院している歯医者から毎回合格が出るようになったと
自慢しておりました。

それまでは、歯周病だ~ 歯槽膿漏だ~ いろいろ
手をつけられたそうです。

乳酸菌は虫歯になるんじゃ? と反論しましたが
本人、効果の絶大さに引き下がることなし。

因みに、実父も納豆派で、毎夜、200回もまぜて
(当然、原型をとどめず)
しばらく熟成(15分)させて菌を繁殖させてから
醤油をたらし食するのです。

by たかね (2011-01-19 17:37) 

karubi

たかねさん、こんばんは。
ヨーグルトの力、恐るべし、そういう感じですね。
結果的に歯の病気にならなかったわけですから、
何らかの効果があったことは確かですね。
でも、真似をするにはちょっと勇気がいりますね。

納豆ですが、一般的には100回くらい混ぜればよいと
言われてますが、200回というのは凄いですね。
その後に15分間寝かせるというのも、手が込んでます。

こう言うと大変失礼ですが、たかねさんのご親族の
方々は、個性が強い方が多いような気がしますが、
如何でしょうか。

karubi
by karubi (2011-01-19 19:47) 

syun

最近の小説って、いわゆる『悪』モノ流行ってませんか?
でも読んでみると、どこかぬるいっていうか、徹底した悪を描ききっていない気がして、最後は社会の善意・美徳の中にうま~く吸収消化されてしまい、めでたし、めでたしみたいな・・・。
自分の知ってる作家だと阿部和重と桐野夏生が『完全な悪』の代表的な作家なんですけど、karubiさんが知ってる徹底した『悪』を描いた作品とか作家って誰かいますか?オススメあったら教えてください。
by syun (2011-01-20 22:34) 

karubi

syunさん、こんにちは。
お返事遅れまして、すみませんでした。

私はあまり本を読まないので、徹底した「悪」を描いた
作品といわれても思い浮かびませんが、事実は小説よりも
奇なりという言葉がありますが、人間というのは
想像できないようなとんでもないことを仕出かす生き物
のようで、大方の小説はそのような事実の前に屈服して
しまうような気がします。

要するに、想像できる「悪」というものには限界があって、
本当の「悪」は現実に生きる生身の人間の中にしか存在
し得ないような気がします。

karubi
by karubi (2011-01-27 23:23) 

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