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名曲喫茶バロック、ヴィオロン、こちらはうるさくありません。 [芸術]

哲学者の中島義道さんは、日本はうるさい国だという。どういうことかというと、電車やバスなどの公共交通機関に乗ると、電車が来るから白線まで下がってくださいとか、次は右折するので気をつけてくださいとか、とにかく四六時中何かアナウンスをして音を発している。また、商店街などでは広告放送の音が絶えない。こういうことは利用者などに対する親切心で行っていることだろうと思うが、中島さんにとっては余計なお節介、単なる騒音にしか聞こえないらしい。

東京のような都会に住んでいると、音が気になることが確かにある。中島さんの話とはちょっと異なるかもしれないが、私は幹線道路の音がとても気になる。昨年8月に引っ越しをしたマンションは早稲田通りという東京でも有数の幹線道路に面していて、一日中トラックやバイクが発する運転音でいらいらが続き、だんだん夜眠れなくなったのでもう限界だと思い、たった2か月で賃貸借契約を解約した。郊外に住むという選択肢もないではないが、通勤のことや生活利便性を考えるとやはり都心に住みたくなる。

都会に住む住民は落ち着ける静かな空間を渇望している。数日前の産経朝刊に、名曲喫茶が見直されているという記事が載っていた。記事は、吉祥寺にある「バロック」という名曲喫茶を紹介していた。私語禁止の喫茶店で、高級スピーカーから流れるクラシック音楽を聴きながら、ある人はただ目をつむって名機が奏でる最高の音にひたすら耳を傾け、ある人は読書をしながら音楽を聴いている。何時間お店にいても文句は言われず、なかには11時間ねばった猛者もいたらしい。同じ音でも、最高のスピーカーから流れるクラシックの名曲は、人の心にやすらぎを与えるということはあっても、決して騒音にはならないということだろう。私が大学時代に付き合っていた彼女とよく待ち合わせをした喫茶店の名前が「バロック」だった。これもなにかの縁かもしれないということで、さっそく私は今日、吉祥寺の「バロック」に行ってきた。

この年になると休日でも朝早く目が覚める。今朝も6時過ぎには起きてパソコンのメールなどをチェックした。新日曜美術館を見終わってから10時過ぎに家を出て国立に向かった。今日は中央線シリーズである。山村まゆ子さんというアーティストの個展が国立駅前で開催されていた。彼女の独創的な作品が好きで、新しい作品を拝見するために国立に行ったのである。

国立を後にして、いよいよ吉祥寺の「バロック」を目指した(写真)。「バロック」は現在、先代マスターの奥様が一人で店を仕切っている。12時10分頃着いたのだが、開店準備の真最中であった。それでも奥様は店の中に私を招き入れてくれて、おしぼりと水を持って来てくれた。店内は正直寒く、暖かいコーヒーが出てくるのが待ち遠しかった。10分くらいすると暖房も効いてきて、一杯800円ブレンドコーヒーもようやく出てきた。何時間いても800円だから、安いといえば安い。

店内を見ていただくとおわかりのように、一人掛け席がほとんどで、二人掛け席は少しあるが、対面ではなく横に並んで座るようになっている。これは、全員がスピーカーに向かって座れるようにするためにそうなっているに違いない。コーヒーを少し飲んだ後、いよいよレコードがかかった。巨大スピーカーが迫力のサウンドを響かせてきた。たまにプレーヤーの針を通してボツッボツッという古いレコード特有のノイズが入るが、これがまた名曲に何とも言えない味付けをしているようにも聴こえる。私も玄人を真似て、黙って一時間、名曲に耳を傾けてみた。

たまにこういう場所に来るのもいいなと思って席を立つと、奥様が、「もうお帰りですか」と言う。といっても、1時間いた。普通の喫茶店だったら30分もいると早く帰れと言うような素振りを見せるが、ここではどうやら1時間というのは短い方らしい。冒頭にも書いたが、11時間いた常連客もいたという。次の用事もあったので、後ろ髪を引かれる思いで、「バロック」を出た。

次の出没地は阿佐ヶ谷。次も引き続き名曲喫茶。少し前まで、中野ブロードウェイの近くに「クラシック」というこちらも名曲喫茶があった。私も何度か行ったことがあるが、惜しまれつつ3年前に閉店した。この「クラシック」に入り浸っていた常連の方が阿佐ヶ谷にオープンさせたのが名曲喫茶「ヴィオロン」である。こちらにある蓄音機は世界最大級といわれ、まるで生の演奏を聴いているような臨場感がある。コーヒーは一杯350円と格安。ここでも1時間ばかり瞑想にふけり、名曲喫茶のハシゴは終了した。

私も立派やアンブやスピーカーが欲しいと思ったが、いいものを買おうと思うと100万円単位の出費を覚悟しなければならない。それは到底無理なことなので、当分は中央線沿線の名曲喫茶で迫力のサウンドを楽しむことにする。


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