新宿の立ち呑み屋、「明日があるさ」で明るく一杯。

版画家の池田満寿夫のことを昨日書いたが、彼が死の直前まで「般若心経」に没頭したという事実は、なんとなく「オカルト的」だなあとふと思った。信仰心があまり強くなると「あの世」から早めにお迎えが来るという話を小さいときに聞いたことがある。池田満寿夫には超人的な集中力があって、「般若心経」、即ち仏教の世界に彼はとことんのめり込んでいったに違いない。そうこうしているうちに、「そろそろこちらにいらっしゃいませんか」という「あの世」からの思し召しがあったということなのかもしれない。私の記憶が正しければ、彼の死は突然やってきたような気がする。それまで彼が病床に伏しているという話は聞いたことがなかった。

さて、仕事を終えて新宿をぶらついていたら、アルタの裏にある小さな立ち呑み屋の店先にドラム缶が二つ置いてあった。このドラム缶は焼き鳥やビールなどを置くテーブル代わりとして使うのである。そのドラム缶の側面をよく見てみるとそこに「明日があるさ」と書いてあって、それを見た瞬間私はここで一杯やろうかと思ってしまった。私のようにだらしのない飲み助は「今日もお仕事お疲れ様。軽く一杯やっていきませんか。いろいろなことが今日あったかもしれないけど、明日は明日の風が吹きますよ」と言われると(そこまでドラム缶には詳しく書いていないが)、「そうだよね。いろいろあるけど何とかなるだろう。よーし、今日は飲むか」と応じたくなるのである。

私はどちらかというと悲観的というか、もし将来こういうことが起こったらどう対処しようかということをいろいろ悩みながら考えるタイプの人間だろうと思う。これは仕事の関係からそうなっているところもあるだろうし(会社では危機管理の責任者をやっている)、個人的性質としてそうなっているところもあるだろうと思う。まあ簡単に言うと、私は取り越し苦労をするタイプなのである。

将来起こるかもしれない悪い事態を何も考えようとしないノー天気も困るが、あまり取り越し苦労をし過ぎるのもよくないような気がする。将来のことは誰も予測できないのであるから、あまり神経質にならず、ゆったりと余裕を持って構えるべきなのだろうと思う。「念ずれば通ず」という言葉があるが、これは「こうなってほしい」と一生懸命念じ続ければ、その希望が現実のものになるという意味だ。一方取り越し苦労というのは、決まって悪いシナリオを頭の中に描くものだが、その悪いシナリオのことばかり考えていると、いつしかその悪いシナリオが起こってほしい、起こってくれなければ困るというような、悪いシナリオが起こることを願うような気持ちになってしまうような気がする。悪いことは起こってほしくないが、せっかいいろいろ悪いシナリオを準備したのだから、一つくらい起こってくれたほうが「報われる」。こんな歪んだ心理状態になってしまうのではないだろうか。

取り越し苦労というのは個人的性質の問題だろうから、それでは明日から取り越し苦労のない人間になりましょうといっても、そう簡単にはいかない。私はこう考えるようにしている。全員が取り越し苦労をしない「何とかなるさ人間」ばかりでも困るだろう。一方、全員が取り越し苦労をする「こうなったら大変だ人間」ばかりでも困るだろう。要は役割分担の問題であって、それらの人間がバランスよく共同体のなかに配置される、そういうことなのではないかと思う。

写真は今夜の歌舞伎町。

コメント 2

中国で大地震！karubiさんは、無事なのか！と一瞬焦りましたが、四川省での出来事で、karubiさんは行かない所のようなので一安心しました。
ブログを読んだら、昨晩もご発展のご様子。
まさに、取り越し苦労でした。
日本の東海大地震もそろそろなのか、怖いですが、地震対策をしたから、地震が起こってくれなきゃ困る・・・なんて、絶対思えないです。
中国、生き埋めの人が大勢いるそうです。早く助けてあげて欲しいですね。
by 蝶々 (2008-05-13 17:04) 

中国プロジェクトは3月で決着したので、当分中国出張は
なくなりました。今回の大地震、北京でも影響があったと
いいますから、相当強い地震だったんですね。
東海大地震も心配ですが、東京でもそろそろ大地震が来る
のではという話もあります。東京の本屋には、もし東京で
関東大震災並みの地震が起きたらどうやって家まで帰る
かという「震災時帰宅支援・避難マップ」というのが売られ
ていて、かなり売れているそうです。本当に大地震が来た
ときにそんな本が役立つのかなと思うのですが、家族の
ある方はやはり心配なのでしょうね。

karubi
by karubi (2008-05-13 21:19)