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時には娼婦のように、これから私はどこに行くのでしょうか。 [芸術]

(gauguin)-where-do-we-come-from.jpg「時には娼婦のように」。30年前に作詞家であり作家でもある、なかにし礼さんが作詞作曲した歌謡曲だ。「時には娼婦のように 淫らな女になりな 真赤な口紅つけて 黒い靴下をはいて 大きく脚をひろげて 片眼をつぶってみせな 人さし指で手まねき 私を誘っておくれ」と始まる歌詞は今読んでも大胆だ。なかにしさんの自伝的小説『兄弟』は名作だと思うが、これを読むとなかにしさんはいつも兄の借金の尻拭いをしてきたことがわかる。借金といっても億単位の巨額なもので、なかにしさんが書いた歌がヒットして少しお金がたまるとすかさず兄がそのお金を奪い取っていく。そんなことが、兄が死ぬまで繰り返された。

あるときお金に困っていたなかなしさんが書いた曲が「時には娼婦のように」であり、ヒット後にっかつで映画化され、なかにしさん本人が主役まで務めた。そこまで経済的に追い詰められていたということだろう。さて、なかにしさんは中国の旧満州で生まれ、8歳の時に日本に引き揚げ、北海道の小樽にやってきた。そのとき盛んだったにしん漁の様子を後日歌にしたものがこちらも名曲である北原ミレイ「石狩挽歌」である。なかにし一家はその後全国を転々とする。転校生として辛い思いをしてきたなかにしさんを救ったものが「音楽」との出会いだった。

さて、以前なかにしさんが出演したNHK「知るを楽しむ」という番組で、次のような印象深い話をされていた。「芸術家の人生は、自分探しの旅です。大人ぶって「そんな青臭いことを大真面目に言うな」と言う人もいるでしょうが、僕はそうは思わない。自分はどこから来たのか、何者なのか、どこへ行くのか。それ以外に芸術家のテーマはないとさえ思う。ですから僕は、自分のことしか書けないのですよ。」。

今日の新日曜美術館でなかにしさんがゴーギャンのファンだということを知って、この言葉の意味に合点がいった。なかにしさんが最も好きなゴーギャン作品が「我々はどこから来たのか、我々は何者なのか、我々はどこへ行くのか」(写真)なのだそうだ。ゴーギャンといえばタヒチであるが、夢見た楽園生活も貧しさからわずか2年で終了してフランスに戻っている。「我々はどこから来たのか」を含め、タヒチを描いた彼の有名な作品はほとんどタヒチ再訪時に描かれたものだ。「我々はどこから来たのか」はゴーギャンが貧困と病気で最も苦しい時期に描かれた彼の遺書代わりのような作品である。

中国旧満州という「異国」で生まれ、日本帰還後も数奇な人生を歩んできたなかにしさんは、ゴーギャンに自分の姿を重ねたことは容易に想像できる。いったい自分は何者なのか、そしてこれからどこに行こうとしているのか、芸術家なかにし礼さんの自分探しの旅はこれからも続く(私は実はなかにし礼さんのファンなのである。彼の作る歌も小説も好きであるが、なによりも彼の大人として腰の据わった態度、そして寛容な心構えが好きなのである。是非これからも第一線で活躍してもらいたいと願っている)。

今週は水曜日から土曜日まで、札幌と北見に出張する。札幌に入る21日から、札幌ではライラックまつりが始まる。ライラックは薄紫色の花を咲かせ、ほんのりといい香りを漂わせる。リラとも呼ばれ、この時期急に気温が下がることがあるが、これを「リラ冷え」という。なんとも美しい響きのある言葉であるが、この「リラ冷え」という言葉を一気に有名にしたのが、渡辺淳一さんが著した『リラ冷えの街』である。人口受精がテーマの小説だった。

今日新宿を半袖で歩いていたら汗が出てきた。もう二週間もするとクールビズが始まる。とにかくこのところ時間の経つのが早くかんじられる。年を取ったせいだろう。「我々はどこへ行くのか」とゴーギャンが言っているが、多分「あの世」でしょうね。でもこれって全然夢がないですね。失礼しました。

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コメント 2

蝶々

石狩挽歌というのは、わたしゃ、夜通しメシを炊く。あれからにしんはどこへ行ったのか?という歌詞の歌でしょうか?
以前、懐メロ特集で聞いて、忘れられない歌です。
なかにし礼の満州引き上げの時のお話を、ある番組の対談で見ました。
ああいう体験をしてきた人にこそ、ずっと第一線で活躍して欲しいと思います。
北海道のリラ冷え・・・もう蒸し暑い名古屋からみると、妖精の世界の話のようです。
by 蝶々 (2008-05-18 21:31) 

karubi

石狩挽歌、そのとおりです。この歌の歌詞で一番凄いのは
「オンボロロ オンボロボロロー」というところです、こんな表現
普通は出来ません。なかにし礼の才能を私はここに見ます。
レコード大賞を3回受賞していますが、数ある作品の中で私は
石狩挽歌がベスト1だと思っています。
一度彼を銀座で見かけたことがあります。小柄で白髪なんですが、
かっこよくて、両脇に美女二人を従えていて大人の男だなあと感じ
ました。彼にはまだまだ活躍してほしいと思います。

karubi
by karubi (2008-05-18 22:09) 

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